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「強化人間物語」 森下薫

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1991~92年にサイバーコミックスで連載されていた「強化人間物語 ANOTHER Z GUNDAM STORY」と、1994~95年にMS SAGAで連載されていた「強化人間物語 MAD WANG 1160」。タイトル通り強化人間が主人公で他のガンダム作品からすると異色の作品性をかもしだしている。なお息をするように絶版なので注意(ガンダム漫画にはよくあること)。

 

ネタばれに気をつける。備えよう。

 

 強化人間が主役ってことは悲劇的な話か、と思わせておいて真逆のことをやっている。出てくる強化人間たち、シヴァ、デコーダ、メガニカはみんな明るいキャラで、ジールも脳改造の修復をしてからは大人しくなっている。機械と人間との調和を目指している話なのでまともなキャラじゃないと調和も何もなくなるからだろう。

・その辺のことを考えて話を作っている所は松浦まさふみの三部作に近い。

・そういやエランも強化人間だった。

 

ANOTHER~(AZG)ではアナハイムの研究所で行われた強化人間とそれ専用のMSの研究開発、それを狙ったネオジオンとの戦いが描かれる。また、マインドコントロールされていたデコーダを救うためのやりとりも見どころである。MAD WANGではコールドスリープにより主人公たちが宇宙世紀1160年(新暦とも書かれている)に移行。ナノマシン、恒星間ドライブ、高次元電脳ネットワークなどが跋扈するSF世界、まあガンダムはもともとSFなんだけど、というよりサイバーパンク以降のSF世界で戦うぶっ飛んだ漫画になっている。

・残念なことにこの二冊で何かに決着がついたということはない。AZGではシヴァが自身の二次人格(シヴァダッシュ)と融合しサイコガンダムを止めようとしたが、結局シヴァダッシュがサイコを支配し二人の戦いで終わった。MAD WANGでは太陽系連邦のコンピュータを支配してシヴァたちは別の惑星まで逃げたが当初の目的である機械と人間の調和については特に進んでいない。

・巻末の設定話などから今後の展開が透けて見えるのでもう続きは書かれないのだろう。作者も漫画家辞めてるらしいし。

・MAD WANGはAZGの半分以下のページ量しかない。ダークウィスパーとかが一応載ってたんだし、電撃大王で続きの連載があっても良かったのでは。

 

 絵はやはり時代を感じる(特にAZG)。キャラクターは80年代90年代の萌え系で髪型にむむむとなる。MAD WANGではそうでもない。

・MSは近藤小林系の影響を感じる。絵が。アレンジは明らかにヤバい。マラサイとかサイコガンダムとかの名称が出てきても、え、どれが? となる。なんか細長いというか突起が長いというか……でも不思議とカッコ悪くはない。サイコは特にカッコいい。小林版イデオンみたい。

・ディフォルティータ。Zガンダムのバリエーションで変形した後に腕と足がちゃんと見えないように収納されてていい。

・MAD WANGになるとA・M(アームドマテリアル)というロボットがMSに代わって登場する。未来感溢れるデザインとタッチに変わっていて凄く魅力的。見開きなどのA・Mが特にベストなカッコよさ。

・段々デコーダの目が垂れ目っぽくなっていって野蛮さが薄れてく印象に。最終話では誰だコイツってレベル。

・AGZの変装した? デコーダが可愛い。

 

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人が次の時代に進むための”デバイス”としてのMSやナノテク、ネットだとすると、この作品におけるガンダムや強化人間というものの扱われ方が見えてくる。戦争における人間ドラマなど、元来ガンダムが提示してきたものに見向きもせずシロマサ的世界をザクザク掘り進めていくその姿は勇ましいというかトチ狂ってるというか。シヴァたちも、0088(AGZ)も0284(なんかこの時代でも活動してたっぽい。MAD WANGのカラーページに英文が載ってるんだけど明らかに糞文なのでまともに読む気がしない)も1160も自分達に合わないと感じているのか、最終的に平和な惑星でのんびり農業している。

・時代を超えても機械に対応出来るどころかその時代の人々を圧倒できるシヴァたちは既に機械との調和を達成しているのかも。まあ作者のあとがきにあるように人間らしさからは遠くなっているんだけど。

 

 ニューサイエンスなどをバンバン出してくる。突っ込みどころも多い。SF小ネタも。

カミーユの戦闘データって0088だと利用できるにしては早すぎじゃない。

・DIFなの、DEFなのどっちなの。

ガンマ線ならIフィールドが見れる、ってなんでや。

・アイスはニューロマンサーか。

身体改造がなされてるデコーダの体内にあるマイクロサイズの金属チップを外部からどうこうするのは無理じゃない。

・技式霊能部、パラサイコロジー部……攻殻2?

フラクタルな動きをすることからAIだと見抜くNT。良い描写。

・STMで分子操作はできなくはないけど……み、未来の技術があるから。

デコーダとメガニカの知覚がヤバい。NT超えてる。おそらくシヴァも同様。

ナノマシンとかの方が便利だしミノ粉をいつまでも運用するメリットないよね。

・1160年だとどのくらい人類は宇宙に散らばっているんだろう。途方もないな。

・ジールが本気を出すと惑聖間の全システムを掌握できる……聞かなかったことにしよう。

・巻末にはなんと、A・Mが装甲無機生命体であると述べられている。損傷を自己修復してたりするしね。パイロットを取り込む? 兵器が兵器を超えてる。

 

「わたしも飛び越えた人間(ニュータイプ)より一つずつ階段を昇っていった人間の力を信じているわ」

「私達の意思はプリントされたものなのにどうして彼女のことがこんなにも気になるのかしら。きっとプログラマーが優しい人だったんですわ」

 

良心のある科学もフィクションにもっと出てきていいよね。